東北大学病院臨床研究推進センター

Clinical Research, Innovation and Education Center, Tohoku University Hospital

東北大学病院臨床研究推進センターは、医学系の研究開発をサポートするとともに、基礎研究の成果を臨床の場に実用化する橋渡しをいたします。

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N陳皮エキスのアルツハイマー病における効果と安全性試験

 従来型の症候改善療法薬にみられる消化器障害の副作用をおこさずにアルツハイマー病(AD)の中核症状を改善する治療薬の開発を目指している。予備的な臨床研究として、健胃薬活性をもち、さらにノビレチン(ポリメトキシフラボノイド類)を高含有する陳皮(N陳皮)エキスがADで認められる認知機能障害の進行を阻止する可能性をすでに論文発表した。その薬効薬理作用の論文も発表済みである。本薬剤について、ヒトにおける安全性、忍容性の検討、投与方法の検討を主として、臨床でのPOC(Proof of Concept)の取得を視野に入れた医師主導の本格的な第1相の研究を展開する。

関 隆志 講師

開発責任者

東北大学大学院医学系研究科
高齢者高次脳医学寄附講座

関 隆志 講師

【研究概要】

対象:アルツハイマー病

【研究の意義・目的】

 超高齢化社会のわが国において、認知症患者は増加の一途をたどると考えられる。2008年の厚生労働省研究班の推計によると、認知症患者は2035年に倍増するとされる。
現在、アルツハイマー病治療薬として認可されている薬物は副作用を少なからず伴うコリンエステラーゼ阻害薬とNMDA阻害薬のみであり、副作用が少なく効果の高い新たな治療薬が求められている。陳皮(ちんぴ)は、古来より食材、漢方薬として利用されており、現在本邦では、健康保険適応の薬剤として取り扱われている。
山國らは、陳皮の成分ノビレチンにアルツハイマー病の遺伝子組み換えモデルマウスにおいて記憶障害を改善させ、アミロイドβペプチドの沈着を抑制する効果を発見した。さらに、山國らは、ノビレチン単体よりも、同量のノビレチンを含有する陳皮エキスの方が記憶学習能力改善作用が強力であることを見出している。
開発責任者(関)らは、ノビレチン高含有陳皮(N陳皮)の煎じ薬が アルツハイマー病患者の認知機能を改善させる可能性を示した (Seki T, et al. Nobiletin-rich Citrus reticulata peels, a kampo medicine for Alzheimer's disease: a case series. Geriatrics & gerontology international. 2013;13(1):236-8.)。
陳皮の安全性について、文献および副作用データベースでの検索で、陳皮が原因とされる重篤な副作用は報告されていない。関らのN陳皮の煎じ薬をアルツハイマー病患者へ投与した先行研究でも、臨床検査値の異常変動は何ら認められなかった。また、本研究で用いるN陳皮エキス剤は、ラット単回経口投与毒性試験および遺伝子突然変異試験で安全性が確認されている。

【対象】

アルツハイマー病患者80名を、二群に割り付ける。
アルツハイマー病以外の精神疾患を有する者を除外する。

【実施計画】

試験デザイン:乱数表による無作為比較試験

実施計画の図(研究の流れ図 被験者のリクルートと評価)
実施計画の図(研究の流れ図 被験者のリクルートと評価)

試験方法:

  • 薬剤
    A群:通常治療に下記漢方薬を併用投与する
    陳皮エキス剤3gを1日3回食前または食間に投与する。
    陳皮エキス剤9g中に、陳皮エキス7200mg(原生薬20g相当)を含有する。
    陳皮エキス剤は、市場品から選別した日本薬局方の基準に合格した陳皮を用い、医薬品GMP施設にて製造された。

    B群:通常治療群
    降圧剤、抗凝固剤、健胃消化薬、高脂血症剤、血糖降下剤などはすべて従前の治療を記録し、そのまま継続する。
    用法、用量は各薬剤の規定するところとする。

  • 投与期間
    12ヶ月間とする。投与中に何らかの副作用と考えられる症状を認めた場合中断する。
  • 調査時期、期間並びに項目

    3-1 調査時期
    患者を特定するために必要な情報、患者背景に関する内容は投与開始前に調査する。

    3-2 調査項目
    原則として以下の項目について調査票に記入する。

    3-2-1 患者背景
    生年月日、年齢、身長、体重、同意取得日、開始日、アルツハイマー病診断日、既往歴、調査開始時の合併症

    3-2-2 併用薬剤、併用療法
    調査薬投与中の併用薬剤(薬剤名、1日服用量、服用期間)

    3-2-3 服薬状況
    開始1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後、及び試験終了後に調査薬剤の服薬状況を調査し、下記の3段階に分けて調査票に記入する。

    • 2/3以上服用(ほとんど内服している)
    • 2/3未満1/3以上服用(半分くらい内服している)
    • 1/3未満服用(あまり内服していない)

    3-2-4 観察項目
    開始直前、3ヶ月後、6ヶ月後、内服終了時(1年後)

    • MMSE(認知機能の指標)
    • ADAS-J cog(認知機能の指標)
    • NPI(周辺症状の指標)
    • Barthel Index(ADLの指標)
    • 血液一般検査:赤血球数、ヘモグロビン量、ヘマトクリット値、白血球数、血小板数 <開始直前と内服終了時のみ>
    • 血液生化学検査:AST、ALT、γGTP、ALP、LDH、総ビリルビン、総タンパク質、アルブミン、BUN、クレアチニン、尿酸 <開始直前と内服終了時のみ>
    • 副作用は採血の他に下記のごとく適宜調査する。

    3-2-5 有害事象の有無
    試験責任医師及び試験分担医師は試験中に観察されたか、または患者が訴えたすべての有害事象を、試験薬の種類または試験薬との因果関係にかかわらず、症例報告書の有害事象欄に記入する。
    副作用を含む有害事象に加え、試験中に発現した疾患、本試験の対象疾患および試験の開始以前から認められていた疾患の悪化も、有害事象として症例報告書に記入する。陳皮の副作用としてはこれまで重篤なものは報告されていない。しかしあらゆる薬物と同様、他に現在予測できない副作用や危険性がある可能性もある。有害事象が発生した場合には、試験責任医師及び試験分担医師は適切な処置を行い、試験継続が困難と判断した場合には試験薬剤(陳皮)の投与を中止する。

  • 統計処理
    各因子について群間比較を行う。
  • 今後の展望
    POC取得後にプラセボを用いた無作為化比較試験を施行する予定。

被験者リクルート用ポスター
被験者リクルート用ポスター

【用語説明】

陳皮:
ちんぴ AURANTII NOBILIS PERICAPRIUM 日本薬局方 ウンシュウミカン又はCitrus reticulata Blancoの成熟した果皮を乾燥させたもの。古くから漢方では、芳香性健胃、鎮咳薬として、食欲不振、嘔吐、疼痛などに用いられている。わが国で現在用いられている漢方エキス剤でも多くの種類の製品の原料となっている。

Nobiletin 高含量の陳皮の基原植物である柑橘類 Citrus reticulata Blanco
Nobiletin 高含量の陳皮の基原植物である柑橘類 Citrus reticulata Blanco

柑橘類 Citrus reticulata Blanco から選別したNobiletin 高含量の陳皮
柑橘類 Citrus reticulata Blanco から選別したNobiletin 高含量の陳皮

ノビレチン:
Nobiletin 低分子(分子量402.39)。高い脂溶性を示すポリメトキシフラボン。

ノビレチン

MMSE:
ミニメンタルステート検査。Mini-Mental State Examination簡便に測定できる認知機能検査。見当識、記憶力、計算力、言語的能力、図形的能力などを評価する。得点の範囲は30~0点(正常→重度)である。
ADAS-J cog:
アルツハイマー病評価スケール認知機能下位尺度日本語版。Alzheimer's Disease Assessment Scale- Japanese cognitive subscale 認知機能を評価するための方法であり、単語再生、口頭言語能力、言語の聴覚的理解、自発話における喚語困難、口頭命令に従う、手指及び物品呼称、構成行為、観念運動、見当識、単語再認、テスト教示の再生能力の項目より評価する。MMSE よりも記憶、構成能力について重点が置かれている。得点の範囲は0~70点(正常→重度)である。
Berthel Index:
バーセル指数 代表的な日常生活動作尺度の一つ。食事、車椅子からベッドへの移動、整容、トイレ動作、入浴、歩行、階段昇降、更衣、排便、排尿を評価する。得点の範囲は100~0点(正常→重度)である。
NPI:
Neuropsychiatric Inventory 介護者による精神症状を評価するための方法。妄想、幻覚、興奮、うつ、不安、多幸、無感情、脱抑制、易刺激性、異常行動の10項目につき、それぞれの頻度を1~4の4段階で、重症度を1~3の3段階で評価する。得点の範囲は0~120点(精神症状なし→重度)である。

【研究の実施計画】

研究の実施計画

【企業連携の状況・希望する企業連携の内容】

小太郎漢方製薬株式会社よりN陳皮の提供をうける。

【共同研究者】

目黒 謙一 教授(東北大学医学系研究科高齢者高次脳医学講座)

中塚 晶博 助教(東北大学医学系研究科高齢者高次脳医学講座)

中村 馨 助教(東北大学医学系研究科高齢者高次脳医学講座)

赤沼 恭子 助教(東北大学医学系研究科高齢者高次脳医学講座)

山口 智 非常勤講師(東北大学医学系研究科高齢者高次脳医学講座)

三條 伸夫 講師(東京医科歯科大学医学部附属病院神経内科)

花田 一志 講師(近畿大学医学部附属病院メンタルヘルス科)

飛田 宗重 病院長(国立病院機構米沢病院メモリークリニック)

斎藤 尚宏 講師(国立病院機構米沢病院メモリークリニック)

【お問い合わせ】

お問い合わせは「開発推進部門」までお願いいたします。

開発推進部門 : 【E-mail】 review*crieto.hosp.tohoku.ac.jp  (*を@に変更してください)

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